教員紹介

人間環境学部教員コラム vol.153

2014.08.07 現代コミュニケーション学科 井上 枝一郎

あなたならどうしますか?

このコラム欄は、人間環境学部の学生さんを主な読者の対象としていると思われるので、これから、ある事例を提示します。あなたならどう対処するかを考えて下さい。現実社会の問題は、複雑かつ多様な側面を抱えており、簡単には答えが出せないものばかりです。今後の参考のためにも取り組んでみて下さい。

 

原料漏洩

山田は、ある石油精製会社において、環境管理部門で将来を嘱望される課長として仕事をしており、部長クラスとの信頼関係にも厚い立場を築いている。
会社は、山田の立てた方針に沿って環境規則を厳密に守り、監督官庁にも評判が良い。
この会社は備蓄タンクやパイプ・ラインを設置し各種の石油化学製品を受け入れ、これらをブレンドしてタンクトラックを通じて得意先会社へと再出荷している。
取締役の井上は山田の働きを大変評価しており、山田をいずれ部長に昇進させようと考えていることを本人にも伝えているような間柄である。
山田の家庭状況はと言えば、現在、長男は東京の私立大学に通わせており、長女は高校2年生で、この子もやがては大学にと考えている。また、長男である山田の両親は、現在、田舎で二人だけで住んでおり、最近父親が軽い痴呆の症状を来しているとの知らせに、やがては介護の負担がのし掛かってくることに一抹の不安を覚える毎日である。
そんなある日、社内の休憩室で取締役の井上と二人でコーヒーを飲んでいる折、井上が山田に、パイプ・ラインで受け入ている石油化学原料に関し、かつて不可解な損失があったことを話し始めた。
2000年代当初は、操業もノンビリしており、石油化学原料の一部の損失が監査の際に初めて発見されたそうである。その内容は、どうやら、40立方メートルの化学原料が消失していたらしい。原因調査によると、パイプ・ラインの運転下で圧力テストを行った結果、パイプの1本が腐食し化学原料が地下へ漏れていたのを発見したという。そこで、漏れを止めて検査のためサンプル採取の井戸を掘ると、その原料が割れ目に滞留しており、深部の帯水層へゆっくり拡散していることが分かったそうである。
会社では工場地下のどこかに原料が滞留・拡散しているかもしれないと考え、調査を試みたが、サンプル採取井戸の周辺では、地上から120メートル以下の地下水は汚染濃度がゼロであったという。また、工場周辺地域の数カ所の調査でも地表水や地下水への汚染はなかったので、当時の部長はもう何もする必要はないと判断し、その後、この井戸は蓋をされ、以後、この話が話題に上ることはなかったという。
山田はこの無邪気な井上の暴露話に愕然とした。彼の認識しているところでは、この場合、山田の立場は、全ての漏洩を報告する責務を負っている。しかし、何年も前に起きた漏洩について何を報告すべきか?。しかも、漏洩の影響は消失しているようでもある。彼は苦渋の顔で井上に言った、「会社はこの漏れの事実を一応は監督官庁に報告しなければならないのではないか」と。
井上はいぶかるように応えた。「山田君、漏れは現在ないのだよ。監督官庁が探せと言っても、当時見つからなかったのだから今はもっと見つけ難いと思う。また、たとえ発見した場合でも、それをポンプで吸い上げて処分するのは、会社が大変なコストを負うことになる話しだよ」と。
しかし、山田は主張する「でも、法律では報告しなければならないことになっています・・・」と。
井上は反論する。「おい、山田、僕は君に内密に話したのだ。確かに君の立場の技術倫理規程では、報告しなければならないだろうが、それは会社に多大の損失を被らせることになる行為だよ。また社員は社内業務内容に関しての守秘義務を要求されてもいるはずだ。君が立場上から監督官庁に報告するというのは、同僚にも相当の負荷や迷惑を掛けることにもなり、適切な行為でも何でもない。予想されることは、会社が面倒な騒ぎに巻き込まれ、無駄な金を使わされ、さらに信用を失墜することだけだ」と。
「しかし・・・」と、山田は言葉に詰まる。
井上はたたみかけるように言った。「山田、率直にいえば、もし君がこのことで監督官庁に報告しても、君は誰にも良いことをしないのだ。会社にも、環境にも、そして君自身にもだ。僕は、前に君を近々部長に考えていると言ったが、もし君がこの件を報告するのだったら、昇進の話は考え直さなければならないな」と。

 

質問

さて、もしあなたが、この山田の立場だったら、この状況にどのように対処しますか?。報告する、報告しない、のいずれかを考えて下さい。

 

 

井上 枝一郎(現代コミュニケーション学科)

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